一度歯を失い、インプラントを入れた患者さまは、歯への意識が高まる傾向があります。
その中で、歯並びが気になるようになる方も多いです。
特に最近では、「インビザライン(マウスピース型矯正)」など、ブラケットを使わない矯正治療も増えたことから、矯正への敷居が下がってきているのを実感します。
とはいえ、
● 矯正治療後にインプラントができるのか
● インプラント矯正って聞いたことがあるけど、なに?
● インプラント後に矯正できるか調べる方法はある?
など、インプラント後の矯正について不安や疑問を感じることってありますよね。
そこで本記事では、日本口腔インプラント学会所属の歯科医師・田口が「インプラントを入れた後の矯正治療」について徹底解説していきます。
矯正治療はインプラントと同じく自費診療にあたるため、治療費も治療期間も多くかかるものです。
インプラント後の矯正治療で後悔をなくすためにも、本記事を読んで正しい知識を身に着けましょう!
【執筆・監修者】田口 耕平
北戸田COCO歯科 院長
【経歴はこちら】
1:Q.インプラントを入れた後に矯正治療はできない?
A.基本的にはできます。
それは、ブラケットでもマウスピース矯正でも同じです。
ただし、
☑ お口の中の状況やインプラントの本数で異なる
☑ インプラントの歯は動かせない
☑ 同時進行で治療はできないケースが多い
☑インプラントがやり直しになるケースはほとんどない
の4つの前提条件は、知っておいたほうが良いでしょう。
どういうことか、詳しく説明しますね!
1-1:お口の中の状況やインプラントの本数で異なる
先ほどお伝えしたとおり、インプラント後の矯正治療は基本的にはできます。
ただし、お口の中の状況やインプラントの本数によっては、矯正治療ができないケースもあるのです。
例えば、
● 歯周病が進行してアゴ骨が薄い・少ない
● 虫歯が進行していて、矯正の歯を動かす力に耐えられない
● インプラントの本数が多くて矯正ができない
ような状況だと、矯正治療が断られるケースもあります。
では次に、なぜインプラントの本数が多いと矯正治療ができないかについて説明していきますね。
1-2:インプラントの歯は動かせない
インプラントの本数が多いと矯正治療ができない理由は、インプラントの歯は矯正をしても動かせないことが関係しています。
なぜなら、インプラントの歯には、矯正治療で歯を動かす際に大きな役割を果たす「歯根膜(しこんまく)※」がないからです。
具体的に何本インプラントが入っているとできないのかは、
● どんな風に矯正するのか
● どんな歯並びなのか
● どこにインプラントが入っているか
で大きく答えが異なります。
インプラントもそうですが、矯正治療もまずは細かく検査をしてみないと、正しい診断結果が出せないのです。
詳しくは、担当医によく相談をしてみてくださいね!
噛む力を吸収・分散するクッションのような役割を果たします。
天然歯(自前の歯)には存在しますが、インプラント(人工歯)はアゴ骨と直接くっついているので、歯根膜が存在しません。
1-3:同時進行で治療はできないケースが多い
これはインプラント治療前に知っておいてほしいことになりますが、基本的にインプラントと矯正治療を同時進行で進めるのはおすすめできません。
なぜなら、どちらも治療期間が長くかかる施術であることから、患者さまの負担が大きくなると予想されるからです。
また、インプラントはアゴ骨としっかり結合するまで負荷を与えられません。
つまり治療の途中では、インプラント部位に矯正器具をつけることができないのです。
そういった意味で、インプラントと矯正は同時進行で治療をしないことが推奨されます。
1-4:インプラントがやり直しになるケースはほとんどない
インプラント治療後に矯正をする場合でも、インプラント治療が最初からやり直しになるケースはほとんどありません。
なぜなら、インプラントが入っている部位を計算して、矯正治療の計画を立てることが可能だからです。
ただし、
● 上部構造は再製したほうが良い
● インプラントの位置が矯正治療の妨げになる可能性がある
といった2つの注意点があります。
まず、上部構造の再製について。
こちらは、矯正治療後に正常になったかみ合わせに合わせて、インプラントの上部構造(目視で確認できる歯の部分)だけを作り直したほうが良いという意味です。
かみ合わせが合っていないと、一部の歯に強い負荷がかかったり、顎関節症や頭痛・肩こりなどの全身症状にまで影響が及ぶ可能性があります。
再製には材料によって、5~20万円前後かかりますが、健康のことを考えれば新たなかみ合わせに合わせて上部構造の再製をするのがおすすめです。
次に、インプラントの位置が矯正治療の妨げになる場合について。
こちらについては、状況にもよりますがメリット・デメリットをふまえて、治療前に矯正治療をするか否かや治療の進め方について、担当医とよく相談する必要があります。
とにかく検査をしてみないと分からないことも多いので、インプラント治療後に矯正を検討される場合は、カウンセリングに行って歯科医師の意見を聞いてみましょう!
その際は、インプラントにも矯正にも精通した歯科医師に相談をするのがおすすめですよ。
2:インプラント矯正とは?2つの治療法
インプラントと矯正について調べる中で、「インプラント矯正」という文字を目にする方も多いと思います。
実はこのインプラント矯正
☑ 歯科矯正用アンカースクリューを利用する治療法
☑固定式インプラントを利用する治療法
の2つの治療法があるので、 混同しないように注意しましょう。
この次に、それぞれの違いについて詳しく解説していきますね。
2-1:歯科矯正用アンカースクリューを利用する治療法
歯科矯正用アンカースクリューを利用する治療法の最大の特徴は、矯正治療の期間だけアンカースクリューと呼ばれるインプラントを口の中に設置する点です。
つまり、歯を失ったときに歯の代わりとして入れる「固定式インプラント」とは全く異なります。
歯科矯正用アンカースクリューは、矯正治療に必要なくなったら取り外すことができるのです。
ちなみに歯科矯正用アンカースクリューには、
● 強固な固定源になる
● 大きく歯を動かせる
● 治療期間の短縮ができる
● 非抜歯治療での選択肢が増加する
● 患者さまの治療負担を軽減できる
といった様々なメリットがあります。
2-2:固定式インプラントを利用する治療法
固定式インプラントを利用する治療法は、インプラント部位そのものを絶対的固定源として使用します。
前述したとおり、インプラントの歯は矯正治療では動かせません。
その特性を利用して、矯正治療を有利に進めるのが固定式インプラントになります。
ちなみに、固定式インプラントは治療後も歯として使用できる点が、歯科矯正用アンカースクリューとの大きな違いです。
3:インプラント後に矯正できるかできないかを調べる方法
インプラント後に矯正できるかできないかを調べる方法は、「歯医者で適切な検査・診断を受ける」の一点です。
なぜなら、お口の環境は千差万別。
ベストな治療プランを立てるためには、
☑ 歯を失った本数
☑インプラントを入れる本数
☑ 歯並び
☑虫歯や歯周病の進行状況
など、お口の中の状況を細かく正確に調べていく必要があります。
そして、それを可能にするためには、歯医者での専門機材を使った検査が必要になるのです。
また、どんな診断結果を出すかは、歯科医師によっても異なります。
そういった意味で、インプラント治療後の矯正治療が可能か否かについて相談する際には、インプラント・矯正それぞれの治療に対応している歯医者を選ぶのがおすすめです。
3-1:治療計画は先に立てるのがおすすめ
インプラントと矯正の両方の治療を検討している場合には、インプラントや矯正治療を始める前に、治療計画を立てるのがおすすめでしょう。
なぜなら、インプラントは埋め込んだ後に位置を変更できないからです。
また、矯正も治療期間が長く、インプラントを後から埋入する場合には歯がない部分をどうするか考える必要があります。
ちなみに、流れとしては矯正を行ってからインプラント治療をするのが基本です。
だだし、インプラント部位が矯正治療に影響しない場合などは、治療計画が変わることもあります。
まずは担当医とよく相談をしてみましょう!
4:インプラントを入れた後に矯正治療はできない?の結論
それでは最後に、本記事のおさらいを簡単にしていきます。
インプラントを入れた後の矯正治療は、基本的にはできます。
ただし、
☑お口の中の状況やインプラントの本数で異なる
☑インプラントの歯は動かせない
☑同時進行で治療はできないケースが多い
☑インプラントがやり直しになるケースはほとんどない
の4つの前提条件があるので覚えておきましょう。
また、インプラント矯正には
☑歯科用矯正アンカースクリューを使用する方法
☑固定式インプラントを使用する方法
の2つの治療法があります。混同されやすいですが、全く異なる治療法なので注意してください。
インプラント治療後に矯正ができるか否かを調べる方法は、歯医者で適切な検査・診断を受けるの一点です。
矯正・インプラントどちらにも積極的に取り組んでいる歯医者で、カウンセリングを受けてみましょう!
以上、「インプラントを入れた後に矯正はできない?」の質問に回答する内容をお話しました。
当院では、各専門の歯科医師と連携をとるチーム医療を実践しています。
「インプラント」「矯正」それぞれの分野に精通した医師が在籍しておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください